物流、ロジスティクス、SCM

  本研究室は物流(physical distribution)、ロジスティクス(logistics)、SCM(Supply Chain Management)を研究領域とし、それら領域における実態調査、課題形成、提言を行うことを研究課題としています。
  物流とは、生産者と消費者の間にある物理的な商品フローを形成する活動であり、具体的には輸送、保管、荷役、包装、流通加工、情報処理があります。ロジスティクスとは、物流の発展概念であり、前述した物流活動に留まらず、購買計画、生産計画、販売計画との連携を視野に入れ、1組織全体の在庫フローを統合的に管理することを目的としています。さらに、ロジスティクスの上位概念であるSCMは、組織の壁を越えて、組織間の協働でもって需給管理を行うことを目的としています。
  秋川研究室は以上の領域を研究ドメインとし、現在、特に以下の4つの領域で継続的な研究を行っております。また、それ以外にも、数年単位で完結する学生主体の研究プロジェクトを毎年立ち上げております。

日本におけるSCMの実態の研究

  SCMは米国で1980年代から概念形成が進み、日本においては1990年代後半から普及が本格化しました。当研究テーマは研究室設立以前のものであり、日本においては先駆けて研究に従事してきたとの自負があります。具体的には、ヒアリング調査やアンケート調査を通して、SCM概念の変遷、有効性の実証、目標管理の実態、SCM部門の組織化、商慣行との関係などについて明らかにしてきました。同テーマで日本学術振興会の科学研究費助成を2回受けております。また、調査結果を反映した形で、SCMの仮想体験が可能な、インターネット上で稼働するシミュレーションゲームの開発にも成功しています。今後も秋川研究室の中心的な研究ドメインとして、研究を継続していく予定です。

主な研究成果

  • 「S&OPの実現要因 : カルビーの事例考察から」、秋川卓也、『流通研究/日本商業学会』 、 第17号第1巻、1-21頁、2014年。
  • 「プライベートブランドのサプライチェーン・マネジメント―セブンプレミアムの事例考察から」、秋川卓也・戸田裕美子、『一橋ビジネスレビュー』、第61巻2号、144-155頁、2013年。
  • 「SCM実現のためのサプライベース縮小:食品メーカーと包材サプライヤーの関係から」、秋川卓也・中野幹久・島津 誠、『流通:日本流通学会誌』、第30号、1-15頁、2012年。
  • 「SCMトレードオフ問題に関する教材の開発とその有効性の検証」、秋川卓也、『経営情報学会誌』、第20号第3巻、125-147頁、2011年。
  • 『サプライチェーンマネジメントの目標管理に関する実証研究』、矢澤秀雄・島津誠・竹本達広・秋川卓也、税務経理協会、2009年。
  • 「メタ・マネジメントの視点によるSCMの展開に関する考察」、秋川卓也、『日本物流学会誌』、No.16、81-88頁、2008年。
  • 「SCM部門と場の展開についての考察 -食品メーカーの事例調査から-」、秋川卓也 、『経営情報学会誌』、Vol.16, No.4、68-71頁、2008年。
  • 「ビールメーカーの事例研究に基づくサプライチェーンのメタ・マネジメント問題に関する考察」、秋川卓也、『日本物流学会誌』、No.15、65-72頁、2007年。
  • 『サプライチェーン・マネジメントに関する実証研究―企業間調整行動の視点から 』、秋川卓也、プレアデス出版、 2004年。
  • 「食品卸売業におけるサプライチェーン・マネジメントの実証研究-情報共有を焦点として-」、秋川卓也、『日本物流学会誌』、No.12、73-80頁、2004年。
  • 「製造業におけるサプライチェーン・マネジメントに関する実証研究-企業間調整の視点から-」、秋川卓也、『日本物流学会誌』、No.11、73-80頁、2003年。
  • 「サプライ・チェーンにおける活動ネットワーク構造」、秋川卓也・矢澤秀雄、『日本物流学会誌』、第9号、53-60頁、2001年。
  • 「サプライ・チェーン管理に関する認識の整理」、秋川卓也・矢澤秀雄、『日本物流学会誌』、第8号、107-117頁、2000年。

物流の視座からの買い物弱者問題の研究

  日本で高齢化が進むにつれて、買い物弱者問題が深刻化することが予想されます。消費者の「買い物」は物流における最終段階を意味し、よって「買い物弱者問題」は物流末端における課題と捉えなおすことができます。しかしながら、このような視点は学術界のみならず実業界においても長らく欠如しており、その結果として「消費者までのフローを含めた物流システムの最適化」が実現されなかったことが、買い物弱者問題を生み出した一因となってきました。秋川研究室では、アンケート調査やフィールド調査を通して、こうした買い物弱者問題に関する提言を継続して行う予定です。

主な研究成果・報道

災害における緊急支援物資ロジスティクスの研究

  東日本大震災において救援物資が集積所に堆積して、速やかに避難所に届かないという問題が発生しました。救援物資ロジスティクスについては、世界的には「人道支援ロジスティクス(humanitarian logistics)」として、2004年のスマトラ沖地震での津波被害をきっかけに、注目を浴びるようになりました。商業ロジスティクスとの主な相違は、目的が「被災者の被害を軽減する」ことにあり、その管理対象となる物や情報のフローが「寄付者から被災者」となる点です。これまで、同領域においては日本の研究者が十分に目を向けていなかったことが、東日本大震災の問題を引き起こした一因になったという反省があります。自治体や被災者に対するヒアリング調査とアンケート調査を通して、あるべき緊急支援物資ロジスティクスのあり方について提言していこうと考えております。2014年度から「震災時における緊急支援物資ロジスティクス体制の検証」をテーマに、日本学術振興会の科学研究費助成(基盤研究(C) 研究課題番号:26510019)を受けることができました。

主な研究成果

  • 「広域型の緊急支援物資サプライチェーンにおける上流過程」、秋川卓也 、『日本物流学会誌』、第22号、157-164頁、 2014年。
  • 「震災時における石油サプライチェーンの混乱に関する課題」、枝澤祥子・秋川卓也、『日本物流学会誌』、第20号、285-292頁、2012年。
  • 「救援物資ロジスティクスにおけるPPP(公民連携)」、秋川卓也・久野桂史、『日本物流学会誌』、第20号、221-228頁、2012年。

事業者側からのサードパーティロジスティクス(3PL)の実証研究

  3PLは、簡単に言うと「物流機能のアウトソーシング」です。これまでの3PL研究は顧客(委託者)側の視座によるものが主流であり、事業者(受託者)側の視座による研究は多くはありません。3PL企業に所属する研究者と協力して、主にアンケート調査によって、日本における3PL事業者の特性、課題、方向性などに関する実証研究を継続して行っています。その研究成果は主に日本物流学会で報告していますが、同学会の学会誌に掲載された論文が2010年に日本物流学会賞を受賞するに至っております。

主な研究成果

  • 「3PL事業者へのアウトソーシングにおける組織間連携に関する研究」、大下剛・秋川卓也、『日本物流学会誌』、第23号、87-94頁、2015年。
  • 「3PL事業におけるマーケティング・プロセスに関する研究」、大下剛・秋川卓也、『日本物流学会誌』、第21号、95-102頁、2013年。
  • 「学習モデルから見た3PL事業の人材育成に関する考察」、大下剛・秋川卓也、『日本物流学会誌』、第20号、69-76頁、2012年。
  • 「3PL事業のおける経験効果に関する研究」、大下剛・秋川卓也、『日本物流学会誌』、第19号、137-144頁、2011年。
  • 「物流事業者の多角化と3PL市場の参入に関する実証研究」、 大下剛・秋川卓也、『日本物流学会誌』、第18号、 137-144頁, 2010年。